鬼上司は秘密の恋人!?
 
「あれ、白井さん。なんか顔赤くない?」

そう徳永さんに指摘され、首を傾げる。

「赤いですか?」

雑誌を胸に抱えたまま「平気ですよ」と立ち上がろうとすると、ぐらりと前にふらついた。
慌てて近くにあったデスクに手をついた。
今日は朝から体がだるかったけど、このくらいなら大丈夫だろうと気を張って顔を上げる。

「なんでもないです」
「本当? なんだか目が潤んでるけど」
「本当に、大丈夫ですよ」

いつも風邪のときは、薬を飲んで気合いで治した。
小さな祐一がいるのに、自分が具合悪くて寝込んでなんていられないから。
一瞬でも弱さを見せたらそのまま崩れ落ちてしまいそうで、具合が悪いときほど、気を張って笑顔を作って平気なフリをする。
誰も頼る人なんていないんだから、自分がしっかりしなきゃダメだと言い聞かせて。

じっと顔をのぞきこんでくる徳永さんを笑顔でごまかしていると、「どうした?」と低い声が聞こえた。
その声に、ぴんと張った気が、緩みそうになってしまう。

「あぁ、石月チーフ。白井さんが具合悪そうなので……」
「平気ですよ」

徳永さんの声を遮って笑う。
不調なのを認めてしまえば、どんどん気弱になってしまうから。
必死に笑顔をつくる私を見て、顔をしかめた石月さんが、大股でこちらに近づいてきた。

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