鬼上司は秘密の恋人!?
「なんて、冗談だけど」
呆然とする私の前で、徳永さんは笑いを堪えるように肩を揺らす。
「じょ、冗談!?」
「白井さんってほんとわかりやすいよね。赤くなったり青くなったり白くなったり。くるくる表情変わって面白い。石月さんがからかいたくなるの、わかるなぁ」
「ひどい……っ」
もう感情が落ち着かなくて両手で顔を隠していると、徳永さんの顔から笑みが消えた。急に真剣な表情で、ゆっくりと口を開いた。
「白井さん。ひとつだけ聞かせて」
それまでとは違う声色に、驚いて顔を上げると、まっすぐにこちらを見つめる。
「石月さんのことが嫌いになったから、突然出てった? 石月さんにはもう、会いたくない?」
『嫌い』だと、『顔も見たくない』と、言うべきだと頭で思う。
そう言葉にしようとして、唇が震えた。
そして私の口から出たのは、正反対の言葉だった。
「……会いたいです。石月さんのこと、嫌いになるはずなんてない……っ」
そう言った途端、張り詰めていた糸が切れたように、涙が溢れた。
冷たい言葉も、ぶっきらぼうな態度も。
いじわるな笑顔も、優しい手も。全てが愛おしくてたまらない。
幸せな生活に慣れないようにと心に決めていたはずなのに。
与えられるのに慣れてしまえば失うのが怖いから、そう自分に言い聞かせてきたつもりなのに。
気づけばもう、石月さんがいないと息をするのも苦しく感じるほど、甘ったれで我が儘になっていた。
どうしようもないほど、彼が好きで好きでたまらない。
もう二度と会わないと、自分で決めたはずなのに。
顔を覆って声を殺して泣く私を、徳永さんは優しく見守っていてくれた。