鬼上司は秘密の恋人!?
「徳永さん、私に会ったことは言わないっていったのに……」
小さな声でそう言うと、電話の向こうで石月さんが笑った。
『徳永を責めないでやって。あいつはほんとになにも言わなかった。ただ、仕事用の電話をどこかに置いてきてしまったから、電話してみてくださいって』
まんまと徳永さんにはめられて、頬をふくらませる。
こんなやり方ずるい。
今まで必死で石月さんへの気持ちをこらえてきたのに、声を聞いた途端、それまでの何倍も彼への思いが膨れ上がってしまう。
『お前も、いきなり出てってケータイの番号もアドレスも全部変えるってひどいよな』
軽い口調でそう言われ、慌てて頭を下げる。
「……お世話になったのに、すいません」
『いや、もういいけど』
そう言って、石月さんが電話の向こうで少し黙り込む。
電話越しに聞こえる微かな呼吸。
今彼はどこにいるんだろう。編集部? 休憩室? それとも家にいるのかな。
ひとりで電話をする石月さんの姿を想像して、ぎゅっと胸がしめつけられる。
『いきなり家を出て、仕事もやめて、チビの幼稚園もケータイの番号も変えて一切連絡とれなくするくらい、俺に好かれるのは嫌だったか?』
低い声でそう問われ、言葉につまった。
『ろくに顔も合わせたくないくらい、俺のことが嫌いだった?』