鬼上司は秘密の恋人!?
 
『なにが甘やかさないでくださいだ。なにが期待させないでくださいだ。散々俺を甘やかして期待させておいて、そのくせ人が好きだって言った途端、勝手にいなくなるんじゃねぇよ、バカ』
「……っ」

次第に笑い声が消え、声が低くなる。
切なげな口調に、息を飲んだ。

『なんでもひとりで抱え込んでんじゃねぇよ。もう少し、人を頼れよ』
「石月さん……」

私が泣きそうな声で名前を呼ぶと、石月さんはゆっくりとした口調で話しだした。

『ちょっと前にいきなり信和製薬はじめ、数社から広告の打ち切りしたいと言ってきた。政治関連の連載を持っていた執筆者からも』

私の反応を伺うように一度言葉を区切り黙り込む。
私が無言を通していると、小さくため息をついた。

『お前が仕事を辞めて俺の家を出たあと、なにごともなかったように契約の再開を申し出てきた。まるでどこかから掛かってた圧力が消えたみたいに』

確信めいた口調で問われ、私は何も言えずに口をつぐんだ。
そんな私の葛藤までお見通しのように、石月さんは続ける。

『誰からの圧力かなんて、想像つく。参議院議員の宮越だろ?』
「…………」
『もう一回聞く。なんで突然出てった?』
「…………っ」
『有希?』

突然下の名前を甘く呼ばれて、ぎゅっと目をつぶった。
どんなに頑張っても、この人には敵わない。そう思って、心の中で白旗を上げる。
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