鬼上司は秘密の恋人!?
白井有希。今日から出版社の契約社員になったばかりの、二十三歳。
これまで色々な職場で働いてみたけれど、どうしても譲れない事情で、短い期間で退職することが続いてしまった。
今度こそは長続きする仕事を!と、条件の合う出版社の求人を見つけ、心機一転頑張ろうと新しい職場に足を踏み入れた途端、上司である編集チーフの石月さんの冷たい言葉に、早くも心が折れそうです。
私だって、前の仕事を辞めたくて辞めたわけじゃない。できるならひとつの場所で長く努めたいのに……。
なんて愚痴を言っても仕方ない。
契約社員とはいえ、ろくに資格をもっていない上に訳ありの私を雇ってくれる貴重な職場なんだから。
事務職でも専門職でもないのに、土日祝日の休みが約束されていて、きちんと定時で上がらせてくれる条件の求人なんてなかなかない。せっかくみつけた仕事だから、上司の毒舌くらい耐えて精一杯頑張ろう。
そう自分に言い聞かせて、ぎゅっと手のひらを握る。
するとそんな私の様子を横目で見た徳永さんが、くすりと笑った。
「石月さん、口は悪いけど、誰に対してもああだから気にしないでいいよ」
「あ、ありがとうございます……」
そんなに顔に不満が出ていただろうかと、慌てて自分の頬を手で隠す。
「あの人のせいで新人も契約社員もすぐに辞めちゃうし、他の編集部の若い子も怖がって近づかないし。おかげでうちのフロアだけむさ苦しいおじさんばっかり」
徳永さんはそう言って、編集部のある島を見回して苦笑いした。