鬼上司は秘密の恋人!?
 

漫画誌から趣味の月刊誌までてがける中堅出版社。その中の男性向けの雑誌が集まる大きなこのフロアには、雑誌ごとにデスクを並べそれぞれの編集部が島を作って仕事をしている。

男性向け雑誌とあって、女っ気はほとんどない。書類で溢れたデスクや、詰め込みすぎで今にも崩れ落ちそうな書類棚が並ぶ雑然としたフロアの中で、みんな忙しそうに仕事をしている様子を見回した。その中でも一際目立つ男の人、石月さんに視線が止まる。

編集者はスーツを着る必要がないようで、みんな薄手のニットやトレーナーなんかのラフな格好で仕事をする中、石月さんは細身の色の濃いデニムと、シンプルなカットソーの上にカジュアルなジャケットを羽織っていた。

書類に目を通しながら椅子に腰掛け足を組む。デスクに肘をついて顎の辺りを指でなぞる。視線を落としたまま視界にかかる髪を耳にかける。
そんな無造作な仕草ひとつひとつが、ファッション誌の一ページのように絵になる。

一八十センチはありそうな長身に、気怠げに動く長い手足。左右対称の端正な顔に、不機嫌そうな表情。綺麗な唇が開いたと思えば、出てくるのは文句と罵声ばかり。

黙っていればモデルさんかと見間違えるほど綺麗な外見のくせに、言動と表情のせいで台無しだ。
そんなことを思っていると、不意に顔を上げた石月さんと目があった。

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