鬼上司は秘密の恋人!?
「その年のクリスマスのことは、今でもはっきり覚えてる。俺はサンタに雪だるまがほしいとねだった。本物の、冷たい雪だるま。馬鹿みたいだよな、金で買えるものをねだればいいのに、溶けてしまえばただの水になる、なんの価値もない雪だるまを欲しがるなんて」
過去の無邪気な自分を思い出したように、石月さんが優しく笑った。
その笑顔が淋しげで、私はなにも言えずに無言で手を止めた。
「休みだった父は車を走らせて、雪の山奥へ向かった。五歳のガキの他愛もない我が儘を真に受けて、雪の積もった場所まで、雪だるまを作って持って帰るためだけに、わざわざ。俺はなにも知らないで、母とふたりでこの家で、父が帰ってくるのを待ってた。テーブルいっぱいに料理を並べて。玄関にはリース、窓辺にはクリスマスツリー」
言いながら、石月さんは部屋の中に視線を走らせる。
思い出をなぞるように。
そしてリビングの入り口近くに置いてある、電話のところで視線が止まった。
「その時電話が鳴った。警察からだった。慣れない雪道にハンドルをとられ、父の運転していた車が横転して、崖から落ちたと言われた。運転席はグシャグシャで、窓ガラスは割れ、発見されたときには、父の体は完全に冷たくなった後だった」
石月さんの言葉に、私は口を覆った。