暴走族に恋をする。



「桜子さんを送り届け、帰って来た快斗に桜子さんのご両親のことを聞くと
両親ともに公務員と聞いて、
そのあとお兄さんを亡くしているとも聞いて、
やっとここで天宮さんの娘さんだと気づきました。

そう言えば以前、私どもの子供が秀名に入学するといって、お話しましたよね。」


「……はい。」


お母さんが静かにそう返事をすると、おじさんは私とお母さんの間に立った。


「天宮さん。
確かに勉強は大切です。私も、快斗には常日頃勉強を疎かにするなと言ってきました。

……でも、それだけじゃなんの意味もない。
私はそう思います。
特別なにかの才能があるなら別ですが、勉強なんてやれば誰でもできる。
それよりも、人とのコミュニケーションが大切ではないか、
私はそう考えています。」


それは、いつの日か快斗が私に言ったあの言葉と、ものすごく似ていた。


「そして人間の価値は学歴だけではない。

……うちの快斗は、こんな見た目をし、警察のお世話になったことも何度もありました。
人様に迷惑をかけたこともたくさんあります。

でも、そうやって快斗は少しずつ成長をしてきました。


友達のためなら歯を食い縛ること
友達のためなら危険をかえりみないこと
誰かのために、命を救おうと身を乗り出したこと…

本当にどうしようもない息子ではありますが、そんな息子が私の自慢の息子です。

誰かのために行動に移せる息子を、私は誇りに思っています。
そう、思いませんか?」


「……はい、素敵だと思います。」


「では、今の桜子さんのこともぜひ受け入れてあげてください。」


「…え?」


「桜子さんは、とてもご両親想いだと快斗から聞きました。
母親であるあなたを喜ばせるために勉学に励み、いつだってご両親のことを考えてる、と伺いました。

人のために、本当に努力をする子だと伺いました。
そして、とても自己犠牲に生きている、とも伺いました。

そんな桜子さんが、今は自分の意思で塾を辞めたいと言った。
自分の感情を殺して生きてきた桜子さんが、今は自分の感情で、自分の気持ちを自分の言葉で伝えた。

それだけでも、大きな進歩だとは思いませんか?

子供たちはもう高校生です。
すでに、判断能力は備わっていると思うんです。
ならば親にできることは、間違った方向に進むのを正すのではなく、
子供が助けを求めたときのために、手を差しのべられるよう見守ってあげることだと、私は思います。

そうやって自分の人生は自分で選らばせ、失敗したときのために選択肢を残してあげる。
それが親の努めだと思いませんか?」


おじさんのその問いに、お母さんは下を向いたまま、なにま答えることはなかった。


「塾を辞めたいというのなら、まずはその理由を聞くのが先でしょう。
頭ごなしに反対ばかりしていたら、子供は自分の人生、自分の力で生きていく力が失われる。

本当に子供の成長と自立を願うなら、どうか反対ばかりせずに、ちゃんと話を聞いてあげてください。」


おじさんはお母さんにそういうと、快斗の顔を見に来た。


「調子はどうだ?」


「思ったより後に引くな…」


「当たり前だ。
……でも、よくやったな。」


「はは、だろ…
……なぁ、龍一は…」


「あぁ、ちゃんと弁護士にお願いしてきたし、類罪だから実刑は免れないだろう。

大丈夫だよ。」


「…そう…よかった…」


「ゆっくり休めよ。」


そうやって、おじさんは快斗の頭に手を乗せた。

……その仲睦まじい姿が、羨ましくて仕方なかった。



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