群青色、君の色。



切り返しをして、竹刀を収め、先生方に挨拶をして、着替えて帰ろうとした。
しかし。

「藤崎!」

この道場の館長である、川村先生に呼ばれた。
「せっかくなんだから、難波さんに稽古してもらいなさい」
一番好きな剣道の先生は川村先生だし、この方を私は尊敬してる。
……でも!
帰りたい。帰りたい。帰りたい。
「先生、布団が私を呼んでいるので帰ります」
なんて言えるはずもなく。

「はい」

返事をして、難波さんの元へ向かった。


「稽古お願いします」
座礼をしながら、丁寧に挨拶する。
この動作をおざなりにすると、やり直しをさせるような面倒臭い人間がこの世界にはいるので、気をつけなければならない。
「こちらこそ、お願いします」
難波さんはしっかりとした動作で、私にこう言った。
そのときの少し鈍ったイントネーションと、笑った顔がなぜだか、ぐるぐると心のなかを駆け巡っている。





「……藤崎さんは、右手で竹刀を振ってるけん曲がっちゃうし、うちがおそくなってるんやで。
もうちょっとだけ左手を意識して竹刀を振ってみて」
「はい!」
注意を受けたとき、私は気づいてしまった。
この人の声、方言が自分の中でドストライクだということに。
……気づいてしまった以上はもうにやけが止まらなかった。


難波さんに稽古をつけてもらった後、防具を外して私はお礼をを言いに行った。
「ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました」
やっぱり、難波さんは柔らかい人だ。
私みたいな高校生のくそがきにもこんなに丁寧な対応をしてくれる。
そんな大人がいったいこの世にどれほどいるのだろう。
「今、何年生?」
「高一です」
「そうなんや〜。
ほんまにいい剣道をとるなあ」
あまりにもはっきり褒められすぎて照れてしまう。
「ありがとうございます」
「これからも頑張ってね」
「はい!」
「またよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」

難波さんの方言を聞きすぎてテンションがマックスだ。
彼に向かって変顔をしてしまったりすることがないように、急いで着替えて急いで家路に着いた。



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