二階堂桜子の美学
第三十二話 思惑

 放課後、龍英が直接綾乃へ連絡を取るとすぐに会えることになり、緊張しつつカフェへと向かう。指定されたカフェに向かうと綾乃は笑顔で手を挙げた。テーブル席に向かうと一人で優雅に紅茶を飲む姿が目に入る。
「こんにちは、綾乃さん。今日もお綺麗ですね。薔薇のストールお似合いですよ」
「あら、お上手ね。ありがとう。どうぞお掛けになって」
「失礼します」
 着席すると龍英も紅茶を注文し綾乃に向かう。
「今日は龍英君からデートのお誘いがあると思っていたわ」
「あれ、バレてました?」
「ええ、桜子の様子を見て私に聞きにきたのでしょ?」
「はい、綾乃さんには何でもお見通しですね」
「何でもは買い被りよ。桜子のことは、たぶん椿さんから聞いたと思うけど、罰を与えたにすぎないわ。あの子は二階堂家の自覚に欠けていたから」
「それにしても人格が変わるのはちょっとやり過ぎではありませんか?」
「龍英君は勘違いしてるわ。今の状態の桜子が、本当の桜子。財閥でもない取るに足らない友達を作ったり男にうつつを抜かしていたのは、周りの悪い影響を受けての結果。これからは私がもっと管理しなければならないわ」
 平然と言い切る綾乃を見て龍英は心底ぞっとする。運ばれてきた紅茶を飲むと龍英はおもむろに切り出す。
「綾乃さん、お願いがあるんですがいいですか?」
「どうぞ」
「桜子さんと結婚させて下さい」
 龍英から出た突然の婚姻願いに珍しく綾乃も驚いた顔を見せる。
「ず、随分唐突ね。どういう心づもりかしら?」
「綾乃さん、パーティーで言ってましたよね。上杉家と二階堂家が親類になれたらこんな嬉しいことはないと。僕も桜子さんが好きだし、両親の同意があれば年齢的にもお互い結婚はできる。何か問題ありますか?」
 龍英の真意がどこにあるのかを探るように綾乃はじっと見つめる。龍英は純粋に婚姻を願う部分もあり平気な顔をしている。
「桜子を上杉家へ嫁がせる、という意味よね?」
「はい」
「……そう、悪くない話だわ。少し考えさせて貰っていいかしら?」
「桜子さんの意見を聞くんですか?」
「まさか、あの子に選択権はないわ。両親に相談の上、私が決めるのよ」
「そうですか、じゃあほぼOKと考えていいですね?」
「そうね。ただし、半年後の高校卒業までは待ってね。高校生同士というのはさすがにマズイから」
「わかりました。それまでに結納等の準備しておきます。結納金は十億くらいで足りますか?」
「十分よ。言うことないわ」
「良かったです。じゃあ、後のことは宜しくお願いします」
 紅茶を飲み干すと龍英は席を立ち、一礼してからカフェを後にする。その姿を確認すると、綾乃はすぐに携帯電話を取り出しコールした。一方、龍英もすぐに携帯電話を取り出し椿へとコールする。
「もしもし、俺だけど」
「はい、お待ちしてました」
「たぶん大丈夫だと思う。本心入ってるしな」
「そのまま本当に結婚したら許しませんよ。弱っている桜子さんを狙おうなんて美学に反します」
「分ってるよ。麻生さん、わりと怖いな」
「当然です。私は桜子さんの幸せのためでしたら命かけますから。それくらいしないと気が済みません。それよりも、本当に大丈夫なんですか? 私はともかく上杉君の方」
「ウチのことならたぶん大丈夫。こういうバカなことに理解ある一族だし、桜子さんを心底慕っている風子も絶対参戦してくれるよ」
「私の方もできる限りのことはしますんで、了解取れたら連絡入れます。それではまた」
 言いたいことだけ言うと、椿は通話を終わらす。龍英は溜め息をついて携帯電話をポケットにしまった――――

――自宅に帰ると龍英は家族全員が集まるタイミングを狙い声を上げる。突然の結婚宣言とその相手を聞き両親のみならず風子も驚く。その上で、桜子の状況を伝え協力を願い出ると、母親と風子はノリノリで賛成する。父親だけは少し難色を示したが、龍英の生き方をも変えた桜子の存在は普段から聞いており渋々頷いた。
 一方、椿の方も美和と早百合に連絡を取り、どういう状況かを説明する。最初は仲間割れした椿のことを面倒臭そうに扱っていたが、桜子のこととなると真剣になり了承を得られる。後は瑛太のことを探すだけだが、こちらの件についても龍英が動くと言ってくれており、椿は心強い面持ちでいた。

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