次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 とにかく結婚できればいい。じいさんの出した条件を叶えるためには、いつ会えるか分からない妹よりも、話を進められそうな姉の方がいい。それだけの理由だ。ただ、何故かそれを、わざわざ自分に言い聞かせているのが妙だった。

 そうやって強引に結婚話を進めていこうとした。愛して欲しいなら、愛せる自信もある。浮気だってしないし、金銭面でも不自由だってさせない。

 俺と結婚するのは、それなりのステータスにもなるはずだ。だから、彼女は結婚すると首を縦に振ればいいだけだ。それなのに、

『もしもあなたと結婚するなら……私、あなたのことを好きになりたいんです』

 先ほど、彼女はとんでもない条件を出して去っていった。好きになりたい? 好きになってほしいではなく?

 おまけに、ずっと俺が作っていることへの指摘もなかなか効いた。失礼ながら、どこかぼーっとしていて、押せば簡単に靡くと思っていたが、意外と芯が通っていて、鋭く聡い。

 こんな風に彼女に対する認識を改めざるを得なくなりながらも、俺たちはじいさんが勝手に話を進めたおかげで、結婚前提で一緒に暮らすことになった。

 彼女との暮らしは、意外と悪いものではなかった。引っ越したばかりで、さらには社長代理として、懇意にしているところへの挨拶回りや、経営の見直しなど、なにかと忙しい日々が続く中、彼女はこちらに干渉してくることはない。

 「好きになりたい」と言っておきながら、不必要になにかしてくることもなく、それが有難いようで、焦る気持ちもあった。
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