次期社長と甘キュン!?お試し結婚
 目の前の彼と結婚を前提に一緒に住むことになったのに、どうすればいいのか分からない。

「あの、宝木さん」

「直人でいい」

 こちらを見ないまま言い放った彼に私は目を丸くする。そしてなにも答えない私を不審に思ったのか、ようやくこちらに顔を向けた宝木さんと目が合った。

「結婚するなら名字呼びは困るだろ? 敬語もいちいち必要ない。俺もそうするから」

 もっともな意見を告げられ、頷くしかできない。それにしても年上で社長代理でもある彼に対し、敬語もなしでかまわないのだろうか。

「晶子」

 そんなことを心配していると不意打ちで名前が呼ばれ、私の心臓は大きく跳ねた。身内以外の男性に名前で呼ばれるなんて久しぶりだ。

 なんでもないかのように、彼の口から私の名前が紡がれ、思ったよりも動揺する。ちょいちょいと手招きされ、そのことを必死に悟られぬように、私はポーカーフェイスを保ちつつ近づいた。

「これ……」

 しかし、机の上におかれている書類を見て私は動揺が隠せなかった。なんたってそこには茶色の文字で「婚姻届」と書かれている。

 二人分の名前や本籍などを記入する欄などドラマや映画でよく見かけたりするが、実物を見るのははじめてだ。

「じいさんが用意したんだ」

 その説明は不要だ。なんたって唯一、書き込まれているのは証人欄で、そこには宝木忠光と流麗な文字が書かれている。しかもよく見れば、もう一人の証人欄には叔母の名前が記されていた。い、いつの間に……。

「必要なところは俺が先に書いておくから、あとは晶子が書いて、持っていてくれないか?」

「こんな重要書類を私が持ってていいんですか?」

 すると彼の冷たい目が私を捉えた。敬語をつい使ったことか、内容が気に障ったのか。
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