LOVE物語3
それから、俺は遥香を直輝に任せて車を病院の入口までまわした。



「遥香、直輝乗って。」



「「はーい。」」


「遥香?」



俺は、遥香が浅い呼吸になっていることに気付いた。



「直輝、遥香発作起きたのか?」



「え?」




「ちょっと、苦しいだけ…。」




「吸入しようか。直輝、これ持ってて。」



遥香の荷物を直輝に任せて、俺は遥香に吸入をさせた。



「はるちゃん、大丈夫?」



遥香は、直輝の言葉に頷いた。



どう見ても、大丈夫とは言えない。



「ちょっと、休もうか。」



「大丈夫、帰れる。」



「遥香、無理はするな。」



「俺が、遥香ちゃんのこと後ろで見てるよ?」



「発作がまた出るかもしれないから…」




「喘息のことは、1年のうちに習ったから少しは対応できると思う。」



「分かった、直輝ちゃんと遥香のことを見ててくれ。発作が起きたら吸入して。」



「分かった。」



「遥香、立てるか?」



「うん…」


遥香は、立ち上がろうとしたけどふらついた。


すぐに抱きとめたから、転ばずには済んだ。


「ちょっと無理そうだな。遥香、抱くよ?」



「え!ちょっ!ここで?」



「何?恥ずかしがってるの?」



「恥ずかしいに決まってるよ!」



恥ずかしがってる遥香をお構い無しに、俺は遥香を姫抱きにした。



それにしても…



また軽くなったな…。



元から軽いのに…



ちゃんと食べてなかったんだろうな…。



俺は、遥香を後部座席に乗せてなるべく楽な体位に整えた。



「じゃあ、出発するよ。」



俺は、そう言ってから車を走らせた。




それから、直輝を家に送り届けてから無事に家に着いた。



遥香は、深い眠りに入ったままで発作も起きる事は無かった。



遥香を起こさないように、再び姫抱きにしてベットに寝かせた。



「ちょっと聴診しておくか…。」



寝ている遥香には悪いけど、俺は遥香の胸の音を聞いた。



音には雑音があって、呼吸するのが苦しそうだった。


可哀想だけど起こすか…。



「遥香、起きて。」



肩を揺すっても、全く起きない遥香。



相当、睡眠時間が取れてなかったんだろうな。



少し、様子見でいくか。



それから、俺は遥香の眠る横で遥香のドナーになってくれる人を探した。



俺のパソコンには、病院に運ばれた脳死判定を受けた人が登録されている。



脳死判定を受けた人の心臓を、遥香に移植ができる。



正直、遥香の心臓はここ半年で大分弱っている。



なるべく早く、移植をした方がいい。



だけど、1つ問題があった。



それは、遥香の体力がもたないかもしれないということ。



体重もあまりないし、喘息もあるから難しい手術になる。



色んなリスクはあるのかもしれないけど、俺は遥香の命を助けたい。




遥香にはまだまだ長生きをしてほしい。




俺の専門は呼吸器系だから、心臓の手術は専門家に任せた方がいい。




そうなると、俺の親父に頼むしかない。



親父は、心臓手術のスペシャリストで色んなテレビやら、雑誌、新聞に取り上げられていた。




だから、遥香の手術も安心して任せられる。



俺は、親父の助手として入ろう。




まだ、受け入れる覚悟が遥香にはないのかもしれない。




手術に関しても、傷が残ることも。




遥香は、お腹に刺された傷跡を気にしている。



だから、また胸に傷がつくことを気にしてしまうかもしれない。



そんな事を考えていると遥香は目を覚ました。



「遥香?苦しい?」



胸に手を当てる遥香の姿を見て焦った。




「ちょっとだけ…」




「薬飲めるか?」




そう言って、俺は水と薬を遥香に渡した。




「大丈夫?」



「うん…。」



「遥香、明日は大学休もうか。」



「え!」



「体調悪いみたいだから。」




「休めないよ…。」



「ダメだ。」



「なんで?」




「遥香…もう少し、自分の身体を大切にしてくれ。遥香は、自分に厳しすぎるんだよ。自分に負荷をかけて無理しちゃうだろ。勉強も大切だけど、遥香の身体の方がよっぽど大切だよ。」




「私は、ただでさえ病気のせいで勉強もみんなより遅れてるの。このままだと、私は本当に医者になれるか分からない。それに、私…本当に医者を目指してよかったのかな…。私、向いてないのかもしれない。進路選択、間違えたのかもしれない…。」



「遥香!」



俺は、遥香の一言一言が胸に突き刺さった。


遥香は、ここ3ヵ月色んなことを溜め込んでいた。



そのことに、気づいてやれなかった。




激しい後悔が俺を襲った。



「ごめん、尊…。言い過ぎた…。」




「いや、謝らなくていいんだ。ちゃんと、溜め込んだものを吐き出してくれた方がいいから。俺も、遥香の苦しみに気づいてあげられなくてごめんな。だけど、遥香。これだけは忘れないで欲しい。医者に向いているか向いていないかは、周りの尺度で決めることじゃないよ。遥香がなりたいっていう気持ちが大切なんだ。周りと比べなくていい。遥香は、遥香のペースで自分の道を切り開いていけばいい。遥香の将来は遥香にしか切り開けられないんだから。俺は、遥香にそれができるようにサポートしていく。だから、もう1人で決めたり溜め込んだりするな。いつも言ってるだろ?辛かったら、俺のところに来い。」



俺は、遥香を抱きしめながら言葉にした。



「目指していいのかな?私にも、なれるチャンスあるのかな?持病があっても、私が努力すれば、尊みたいな立派な医者になれる?」



「当たり前だ。遥香は、きっと立派な医者になれる。いい医者になれるよ。だから、自分を信じて。だけど、体調が悪い時はゆっくり休むことも必要だよ?」




「分かった。私、頑張るから。」



遥香のことをこれから先も見守っていこう。


支えることができるように、俺なりにサポートしていこう。



俺も、遥香の未来に一緒に寄り添いたい。
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