コミュ障なんです!

待ち構えていた三浦さんは、向かいの席に座るように手で指示をすると、前のめりになり、他の人には聞こえないようちょっと声を下げて言った。

「実は相談なんだけど」

決して派手ではない、けれどしっかりとマニキュアの塗られた手が、無機質なファイルから、やっぱり白の無機質な書類を取り出す。
どうやら、先日メールで送った報告書を印刷したものらしい。

今作っているWebシステムの仕様変更を、クライアントとの会議で詰めたものの報告書だ。
三浦さんも出席した会議で、私はどちらかというと記録担当という形で呼ばれていた。

「なんですか? どこか間違いでも」

「いいえ。いい出来だわ。でね。この検索結果表示の画面構成なんだけど、どういう流れでこの形になったかをね、社内会議で説明してほしいの」

そんなことを言われても困ってしまう。
ちゃんと文書にしてまとめてあるんだから、読めばいいじゃないの。

「私、ここに書いてある以上のことは言えません」

「読み上げるだけでもいいのよ」

「だったら私じゃなくてもいいじゃないですか」

上司に言い返すのには勇気がいる。
手にも汗かいちゃうし、喉もカラカラになって声がかすれてきちゃう。

焦りを隠すためにメガネを直したら、彼女には私が不満げにしているように映ったらしい。

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