コミュ障なんです!

「あのね。これはチャンスよ。あなた、プログラミングだけじゃなくて設計のセンスがちゃんとある。こういう会議に出席して顔を売り込むことが出世につなが……」

「すみません。そういうのはいいんです。三浦さん、お願いしますよ」


ぺこりと頭を下げて、再び顔を上げたら、三浦さんの仏頂面とご対面。

ああ、美人が台無しだな。台無しにしたのは私だけど。

三浦さんはあからさまにため息をつき、書類を丸めて自分の掌にたたきつける。
ポンポン、バシン。最後の一撃に苛立ちを感じた。怖い。


「わかった。いいわ。じゃあ代わりに私がやるので異存はなしね?」

「はい、助かります」

「はー……仕事戻っていいわよ」


ため息とともに、諦めた顔になった三浦さんは、先に立って自席へと戻っていく。
私はそれを見送り、ほっとひと息ついた。

わかってはいるんですよ。
三浦さんが私のこと考えて言ってくれているってことくらい。
三浦さんは誰が見ても公平な上司で、可能性があると見込んだからこそ、こんな愛想のない私に声をかけてくれてるんだってことも。

でも、いいんです。私は出世しなくても。
こんな話下手な自分が生き延びていけるほど世間は甘くないってちゃんとわかってます。

得意分野の数学を生かし、大学で情報処理を学び、就職したこのジーザスシステム株式会社。
プログラマーとして、言われた仕様をコツコツと形にしていくのは楽しくて、気が付けば二十七歳。
外出嫌いな私はせいぜいがネットショッピングに使うくらいで、貯えは上々なのです。
だから、ガツガツ仕事する必要なんてないんです。

後の人生、可能なら、昔ながらの日本男児と恋がしたい。
そして、昭和の女よろしく専業主婦になるのが夢なんです。


だってこれ以上、人間関係で苦労したくなんかないんですもんー!



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