透き通る季節の中で
 日曜日の朝、私は久しぶりにお風呂に入った。
 きちんと身なりを整えた。
 制服に着替えて家を出た。
 電車に乗って亮太の家に向かった。

 目的は三つ。

 亮太のご両親に会って謝罪する。
 亮太の絵を、亮太のご両親に手渡す。
 亮太のお墓の場所を教えてもらう。



 私は勇気を出して、インターホンを押した。



「どちら様でしょうか」
 亮太のお母さんの声。

「こんにちは。突然お邪魔してすみません。亮太さんとお付き合いをさせていただいた、佐藤咲樹と申します」
 声が震えているのが自分でもわかる。

「何か御用でしょうか」
 亮太のお母さんの声は、冷たく聞こえる。

「亮太さんの絵を描いて持ってきたんです。よろしければ、受け取っていただけませんでしょうか」

「亮太のことは、忘れてください」

「……あの、亮太さんのお墓の場所を教えていただけませんか」

「あなたのためを思って言っているんですよ。もう帰ってください」

「…………あの、すみません」

「もう来ないでください」

 インターホンは切れてしまった。

 もう一度、インターホンを押そうかどうか考えた。

 押す勇気は出てこない。情けないけど出てこない。

 亮太のお母さんの気持ちは理解できる。

 だから、これ以上は……



 玄関に向かって頭を下げて、亮太の家を後にした。



 歩きながら考えた。
 亮太の絵をどうしようか考えた。

 歩きながら考えているうちに、思い出の海に流す。という考えが浮かんだ。

 

 駅前の百円ショップで、ジップロックを買った。
 お花屋さんで、コスモスの花束を買った。色は赤色。



 電車に乗って海に向かった。



 浜辺は静か。
 私しかいない。
 亮太と来た時より波は荒い。
 空は曇っている。




 私の大好きな亮太へ。

 亮太の絵をたくさん描いたよ。
 見てくれたら嬉しいな。
 亮太、ありがとう。
 たくさんの思い出をありがとう。
 またいつの日か、一緒に走ろうね。

 絵の裏側にメッセージを書いた。



 亮太の絵をジップロックに入れた。
 
 コスモスの花束を海に流した。

 フリスビーを投げるような感じで、亮太の絵の入ったジップロックを海に投げた。



 どうか、どうか、亮太の元に届きますように。



 今日からしっかりご飯を食べる。
 毎日、必ずお風呂に入る。
 明日から学校に行く。



 そして、もう一つ、やらなければいけないことがある。



 死別の悲しみを乗り越えるために。
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