透き通る季節の中で
「オートバイは、どんなところが楽しいですか?」
 私は乗ったことがないので、興味がある。

「いちばん楽しいのは、いろんな風を感じられることです」
 安藤さんは瞬時に答えてくれた。

「いろんな風といいますと?」
 風にも種類がある。聞かずにはいられない。

「海岸線を走っているときは、潮の香りのする海風を感じられますし、山道を走っているときは、森の樹々たちの優しい風を感じられますし、住宅街などの街中を走っているときは、人の生活の香りが感じられます。どの風にも香りがあって、季節ごとに風の香りが違うと思うんです。僕は、バイクに乗っているときに感じる風が好きなんです」
 細かく語ってくれた安藤さんは、恥ずかしそうに生ビールを飲んだ。

 安藤さんも風を感じることが好き。

 なんだか嬉しく思った。

「マラソンは、どんなところが楽しいですか?」

「安藤さんと同じで、いろんな風を感じられることです。追い風も向かい風も横風も暖かい風も冷たい風も透き通る季節の風も、走る元気を与えてくれます」

「透き通る季節の風といいますと?」

「簡単に言いますと、秋の風です」

「秋の風ですか」

「はい。秋の風です」

「自分の足で走ることと、バイクに乗って走ることは違いますが、マラソンもツーリングも、目的地に向かって走り続けるという点では同じですね」

「そうですね。黙々と走り続けていれば、いつか必ず目的地に到達しますからね」

 同じ感覚を持っている人と出会えて嬉しい。ただただ嬉しい。
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