透き通る季節の中で
 ぼんやりとだけど、看護師さんの顔が見える。

 先生の顔も見える。

 大きな声で何かを言っている。

 慌しく動いているように見える。



 息が苦しい。

 ものすごく苦しい。

 ただただ苦しい。

 呼吸ができない。



「先生! 早く何とかしてください!」
 美咲の声。

「死んじゃダメだよ!」
 友紀の声。

「咲樹! しっかりして!」
 まっちゃんの声。

「頑張って生きるのよ!」
 春子さんの声。

「あんた医者だろ! 何とかしろよ!」
 姉さんの声。

 誰が誰の声だか、まだ辛うじてわかる。



 は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は……



 何も見えなくなり、何も聞こえなくなった。

 とても静か。

 目の下が冷たいのを感じる。

 なんだかすごく良い気分。



 やっと楽になれる。

 もう、誰も好きにならなくていい。

 恋をしなくていい。

 天国にはいきたくない。

 永遠の眠りに就きたい。



 三十五年と六ヶ月。

 最後まで一生懸命に駆け抜けた。

 もう、悔いはない。

 こんなにも多くの友達に囲まれて。

 私の人生は、幸せな人生だった。



 みんな、最期の最期まで、ありがとう。
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