イケメン富豪と華麗なる恋人契約
階段を下りるか上がるか、少し悩んで……日向子は上に向かった。
三階は半分が小野寺の居住スペース、残りの半分は屋上になっている。一応勤務中なので、外より屋上のほうがマシだろう。
屋上の手すりを掴み、噛みしめていた唇をフッと緩めたとき、日向子の頬を温もりが伝った。ポロポロ、ポロポロと流れ落ち、紺のスーツの襟を濡らしていく。
千尋に答えたとおり、『祖父といっても見ず知らずの人』にすぎない。
どこかで目にしたことがあるかもしれないが、とっさに思い浮かばないのだから、顔など知らないというのが正解だろう。
声も知らなければ、手の温もりも知らない。優しい人だったのか、怖い人だったのか、全くわからない祖父。
それでも、言葉にできない喪失感に、日向子は打ちのめされていた。
その直後だった。
「こんな場所で、ひとりで泣いていても、意味がないと思うのですが……」
千尋の声が聞こえてきた。
振り返ると、彼はため息をつきながら、涼しい顔で付け足す。
「ああ、私が追いかけてくるであろうことを、察しておられた、とか?」
彼の言い様は、日向子の神経をこれ以上ないくらい逆撫でした。
「意味なんて……ただ、五つのときに父が死んで、十八で母と、九年間育ててくれた父が死んだのよ! わたしは、自分が疫病神……ううん、死神に思えてくる。お祖父さんには……会うことも、できなかったなんて……」
自分には、家族の縁がないのかもしれない。
こんな自分と一緒にいたせいで、弟たちも危険な目に遭わせてしまった。その上、両親ともに失って苦労させている。
実父が亡くなり、母とふたりになったとき、日向子は必死に母を励ました。
母の再婚が決まったときは、『新しいパパができる』とはしゃぎ、すぐに『お父さん』と呼んで、一生懸命に仲よくしようとした。
そして姉弟で残されたとき、決して泣きごとは言わないように、頑張って頑張って頑張って……前を向いて生きてきた。
それでも、深く傷ついているところを殴られたら、あまりの痛さに顔を上げていられなくなる。つらくて、苦しくて、挫けてしまいそうだ。
三階は半分が小野寺の居住スペース、残りの半分は屋上になっている。一応勤務中なので、外より屋上のほうがマシだろう。
屋上の手すりを掴み、噛みしめていた唇をフッと緩めたとき、日向子の頬を温もりが伝った。ポロポロ、ポロポロと流れ落ち、紺のスーツの襟を濡らしていく。
千尋に答えたとおり、『祖父といっても見ず知らずの人』にすぎない。
どこかで目にしたことがあるかもしれないが、とっさに思い浮かばないのだから、顔など知らないというのが正解だろう。
声も知らなければ、手の温もりも知らない。優しい人だったのか、怖い人だったのか、全くわからない祖父。
それでも、言葉にできない喪失感に、日向子は打ちのめされていた。
その直後だった。
「こんな場所で、ひとりで泣いていても、意味がないと思うのですが……」
千尋の声が聞こえてきた。
振り返ると、彼はため息をつきながら、涼しい顔で付け足す。
「ああ、私が追いかけてくるであろうことを、察しておられた、とか?」
彼の言い様は、日向子の神経をこれ以上ないくらい逆撫でした。
「意味なんて……ただ、五つのときに父が死んで、十八で母と、九年間育ててくれた父が死んだのよ! わたしは、自分が疫病神……ううん、死神に思えてくる。お祖父さんには……会うことも、できなかったなんて……」
自分には、家族の縁がないのかもしれない。
こんな自分と一緒にいたせいで、弟たちも危険な目に遭わせてしまった。その上、両親ともに失って苦労させている。
実父が亡くなり、母とふたりになったとき、日向子は必死に母を励ました。
母の再婚が決まったときは、『新しいパパができる』とはしゃぎ、すぐに『お父さん』と呼んで、一生懸命に仲よくしようとした。
そして姉弟で残されたとき、決して泣きごとは言わないように、頑張って頑張って頑張って……前を向いて生きてきた。
それでも、深く傷ついているところを殴られたら、あまりの痛さに顔を上げていられなくなる。つらくて、苦しくて、挫けてしまいそうだ。