イケメン富豪と華麗なる恋人契約
下の晴斗は母によく似ていて、かわいい系の顔立ちだ。それに比べて大介は、父似で精悍な顔立ちをしている。

小学生のころまでは生意気なことを言いつつ、晴斗とふたりで日向子を取り合うようなかわいいところもあった。だが中学に入ってからは、日向子とはあまり話さなくなった。

陸上部に入り、帰宅が遅くなったこともある。
大介はかなり足が速い。中学二年のときは東京都の大会で二年男子百メートルの新記録を作ったくらいだ。そのため、陸上部の友達と過ごす時間が増え……当然、家にいる時間は減った。


火事のあと、日向子たちは引っ越しを余儀なくされた。

小学生だった大介は転校したが、黙っていても、火事のことはすぐに学校や近所の人に知れ渡った。事情を知る教師は、大介のことを腫れ物にでも触るように気遣ってくれたが、子供たちはそうはいかない。些細なことがきっかけで喧嘩になり、日向子が学校に呼び出されることはたびたびあった。

その状態がしばらく続き、やがて、自宅に児童相談所の職員が訪ねてきた。

最初は『話を聞かせてください』と言うだけだった。ところが、しだいにその口調は変わっていき、


『未就学のお子さんは手がかかりますし、下の弟さんだけでも施設に預けてみてはどうでしょう? そのほうが、お姉さんの就職も楽になると思うんですよ』


などと、日向子の痛いところを突いてきた。
そのたびに『もう少し頑張ってみます』と答えていたが……。大介の情緒が安定しないことを理由に、児童相談所の職員はとんでもないことを言い始めた。


『これは、お姉さんご自身のための提案なんですよ。小学校に上がる前なら、養子に出されるのもいいと思うんです。今なら、新しいご家族にもすぐに馴染むでしょうし、晴斗くんのためにも、早いうちにご決断されたほうが……』


晴斗を養子に出すよう言われ――。
そのとき、意外なことに、大介は職員に向かって謝ったのである。


『ごめんなさい! 二度とケンカはしません。姉ちゃんと先生の言うことをちゃんと聞きます。晴斗の面倒もみます。だから、だから……父ちゃんから、晴斗を頼むって言われたんだ。だから……』


そんな大介を力いっぱい抱きしめ、日向子は『自分が責任を持ってふたりを育てます』と言いきった。

あれ以来、大介は学校で喧嘩をしなくなった。
面倒を起こして日向子が呼び出されたら、児童相談所に連絡が行ってしまう。そうなれば、幼い晴斗を連れて行かれるかもしれない。
そんな不安から、大介はいろいろなことに我慢するようになったのだろう。


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