ガラクタ♂♀狂想曲
「ねえデンちゃん、あのさ」
「ん?」
「はじめてピアノ聴かせてくれたとき、私と桐生さんが来るとわかってたの?」
するとふっと表情を緩め、目を細めたデンちゃん。そして私の目をじいっと見る。
「どっちだと思う?」
「知ってた、かなあ」
「うーん、半分正解」
おでこをコツンと合わせてきた。
「バイト雑誌パラパラ見てて——、でもピアノのあるレストランなんて都内でもそうないし。しかもオープニングスタッフ募集。ショコちゃんが来なくても、コーキさんは必ず来ると思ってた」
「そっか」
「けどコーキさんとショコちゃんが一緒に来てくれてよかった」
「——あのさ、デンちゃん」
「じつは俺、一度ふたりを見かけたことあって。そのときショコちゃん、ふわふわのイヤーマフつけてて」
え。
「いつ?」
「ゼロの前で」
デンちゃんが働いていたホストクラブだ。あれはたしか、はじめて桐生さんの彼女役としてイベントに顔を出した日で。
「楽しそうに笑っててさ、ショコちゃん。おかげで俺、吹っ切れたから。コーキさんには感謝の言葉しかない。ちゃんとショコちゃんを捕まえておいてくれたし——……。だからさ、あの指輪、赤いの。あれは俺が頼んだものだけど、でもあれはやっぱりコーキさんの物で……」
「——デンちゃん」
全部、知っているのだろうか。
すべてお見通しなのかな。
「だけど、これからはダメだからね」
きゅっと顎を引いて上目遣いになったデンちゃんは、ちょっとふざけた顔をして眉を寄せた。
「俺さ、これから先、ショコちゃん以外の人と、こんなふうになれる気がしない。だから離れてダメになるぐらいなら、どこにもいきたくないから」
「デンちゃん」
「情けないところもたくさん見せたし、腰抜けなとこも見せたし、バカで間抜けなデンちゃんを見せられるのはショコちゃんしかいないから。だからショコちゃんも、そうであってほしいな」
胸が熱くなってしまった。何度も頷いたけれど、どうすれば私の気持ちが、もっと伝わるのだろう。
私が思っているよりも、ずっとずっとたくさんのことを考えているデンちゃん。