真っ白なキャンバス(仮)
「んー? 忘れた」
「前から思ってたけどあんまり良くないんじゃないの?」
俺の真剣な顔を見た綾乃は目を丸くしている。
「何?いきなりそんな真面目な顔で~」
「だって未成年だし。女の子は特に体に…」
「綾乃はハタチだからいいの!」
「えっ?」
「やだ、冗談だってば」
…真剣に話を聞く気ないな、コイツ。
そもそも他人に対してこんなお節介、俺らしくないじゃないか。
俺は諦めてスケッチブックに視線を戻す。
「ハタチは嘘だけど海斗よりは1歳上だよー?」
「…」
綾乃の言うことはどこまでが冗談なのかよく分からない。
「なーんて嘘。それは恭平なのでした!」
「え?」
「恭平は18歳だよ」
恭平が1歳年上?
それじゃあやっぱり…。
「恭平、それマジなの?」
俺は部屋の奥でギターを弾く恭平を見つけた。
「あ、ああ?そーだけど」
「1コ先輩なのに気づいたら同級生になってたの!留年。恭平って意外とアホなんだよね~」
「うるせーよ、綾乃」
やっぱり恭平があの時の少年なんだろうか?
初めて屋上で恭平と会った時、その名前を聞いて「もしや?」って思った。
だけどあの少年は1歳年上だったからきっと別人だろうって。
第一、あの少年がこんなイケイケな男には育ったとは思えなかった。
それに恭平は俺の名前を聞いても何の反応も示さなかったし…。
*
夏も終りに近づいてきた。
恭平のことは気になりつつも未だに聞くことができていない。
もし本当に恭平があの少年でも、そんなこととっくに忘れてるんじゃないか?って。
それってかっこ悪いし何か寂しい。
その恭平は最近バンドの活動が忙しいらしくてあまりうちに来ていない。
綾乃は相変わらずうちでゴロゴロしているけど…。
だらしない格好の綾乃を見てふーっとため息をつく。