真っ白なキャンバス(仮)

望は母親が死んでからずっと家に引きこもりがちだった。
この春、高校に入学してからは毎日学校に行くようになったけど。
でも今度は逆に帰りが遅くなったりしてて気にはなっていたんだ。
帰ってきてもすぐに自分の部屋に閉じこもるし…。

一応どうして帰りが遅いのか聞いてみたりはした。
でも望は俺以上の頑固者。
俺の話になんて耳を傾けようともしない。

望が心を閉ざした過程は俺が一番近くで見てきた。
そしてアイツを救ってやれなかった俺にも責任はある。

「どうしたもんかな…」

ふと頭を過ぎった俺と望の幼い日の記憶。
忘れられない記憶ー。
俺はそれを振り払うようにギュッと瞳を閉じた。





「…望」


翌朝、俺は思い切って昨日のことを聞くことにした。

「恭平に聞いたけどお前、昨日ビルで…」
「あー?あれ誤解だから!」
「あ、そうなの?」

あっさりと否定した望に、俺はホッと胸を撫で下ろす。

「ちょっとボーッとしてただけ。あそこは通ってる塾のビルだよ」

望は高校入学と同時に学習塾にも通うようになってた。
中学時代に引きこもっていた彼女。
学習面で周囲と比べて足りないところがあるから、と望み自ら通い出したのだ。

「…そう。あと望さ、最近少し夜遅いんじゃない?」
「だから塾!」
「それにしても遅すぎる。毎日だし」
「お兄ちゃん、親父みたい」

面倒くさそうに苦笑する望。

「分かったよ。気をつける!それより…」
「ん?」
「あの人たち、お兄ちゃんの友達?」
「一応」
「ふーん。お兄ちゃんの友達なんて初めて見た」
「…」
「よく遊びに来てるの?気づかなかった」
「まあ」
「へぇー。可愛い人だったね?」

意味深な笑みで俺のほうを見つめる望。
彼女がどうしてそんな表情をするのか俺には全く分からなかった。

「綾乃のこと?」
「付き合ってるの?」
「は?まさか!」

俺は望の言葉に少しだけ動揺する。

「…だよね。あの人も、まあまあかっこよかった」
「恭平?」
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