例えば危ない橋だったとして

昼以降、黒澤くんの回答を待っていたが、一向に返事がないまま夕方になってしまった。
もしやと思い、伺いを立ててみる。

「あのー……午前中に聞いた、事故付きの登録の件なんだけど……」

黒澤くんはわたしの言葉を耳に入れると、目を見張った。

「ごめん! 忘れてた!」

途端にうろたえる彼に、わたしの方が面食らってしまう。

「すぐ確認する」
「まだ時間あるから大丈夫だよ……」

わたしの返事より先に、キャビネットへ飛んで行ってしまった。
こんな黒澤くんは見たことがなかった。

完璧の仮面が剥がれている……と過ぎった。
これは、ただごとではない??

やっぱり何かあったんじゃ……胸の中で心配が渦巻く。
だけど、万が一その何かが女の子の話だったら……わたしに問い質されたくなどないだろう。


質問出来ないまま、その日は終わりを迎え、翌日、翌々日と黒澤くんは振る舞いを立て直して来ていた。
特に問題もなく、年内最後の日を終え掛けている。

「良いお年を」

皆に挨拶して回り、黒澤くんにも同じように声を掛けた。

「来年もよろしく」

微笑みを返してくれたが、これで1週間近く会えない。
約束を取り付けたい願望はあったが、言い出せなかった。
黒澤くんにその気がなさそうな感覚を受けたから。

< 136 / 214 >

この作品をシェア

pagetop