例えば危ない橋だったとして
昼以降、黒澤くんの回答を待っていたが、一向に返事がないまま夕方になってしまった。
もしやと思い、伺いを立ててみる。
「あのー……午前中に聞いた、事故付きの登録の件なんだけど……」
黒澤くんはわたしの言葉を耳に入れると、目を見張った。
「ごめん! 忘れてた!」
途端にうろたえる彼に、わたしの方が面食らってしまう。
「すぐ確認する」
「まだ時間あるから大丈夫だよ……」
わたしの返事より先に、キャビネットへ飛んで行ってしまった。
こんな黒澤くんは見たことがなかった。
完璧の仮面が剥がれている……と過ぎった。
これは、ただごとではない??
やっぱり何かあったんじゃ……胸の中で心配が渦巻く。
だけど、万が一その何かが女の子の話だったら……わたしに問い質されたくなどないだろう。
質問出来ないまま、その日は終わりを迎え、翌日、翌々日と黒澤くんは振る舞いを立て直して来ていた。
特に問題もなく、年内最後の日を終え掛けている。
「良いお年を」
皆に挨拶して回り、黒澤くんにも同じように声を掛けた。
「来年もよろしく」
微笑みを返してくれたが、これで1週間近く会えない。
約束を取り付けたい願望はあったが、言い出せなかった。
黒澤くんにその気がなさそうな感覚を受けたから。