例えば危ない橋だったとして

エレベーターホールへ歩いて行くと、そこには黒澤くんが佇んでいた。

「……エレベーター、来ないの?」

問い掛けると、意外な返事が来た。

「一緒に歩いて良い?」
「……うん」

……もしかして、わたしのこと待ってた?
見る間に頬が紅潮して来た。
一緒にエレベーターへ乗り込む。
静かな空間の中、速まって来た自分の心臓の音がよく聞こえる。
定時から2時間後なので、人目の心配はそう必要ないだろうが、正月明けだから通常よりは残っている人も多いのかも知れない、などと思案していた。

ビルの外に出て、歩道を進む。
黒澤くんの横顔を見上げると、緊張感を漂わせているような気がした。

「……お陰様で無事に葬儀も終わったよ。ありがとな、本当に」
「……わたしは何も」

両手を開いて、笑顔を返した。
黒澤くんが、じっとわたしと目を合わせた。

「通夜の時……」

切り出された言葉に、心臓が高鳴る。

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