例えば危ない橋だったとして

そのまた翌日、金曜日。
黒澤くんが久々に出社してきた。
年が明けて初めての出社となるため、皆が心配して黒澤くんに声を掛けた。

それらが落ち着き、わたしと顔を合わせると黒澤くんが言葉を発した。

「一昨日は通夜に来て貰ってありがとう」

わたしは微笑を返し、首を横に振った。


年明けから仕事は非常に忙しい。
年末年始の間に依頼が溜まっていたせいもあるが、黒澤くんが居なかった痛手により、昨日本日と残業続きになりそうだ。
目が回るように時間は過ぎ去り、黒澤くんと話をしているような暇はなかった。

2時間の残業を終え、時刻は19時半。

「お先に失礼します」

片付けをしている間に、黒澤くんは帰って行ってしまった。
わたしより先に出るなんて珍しい。まだお葬式の片付けなどが残っているのかも知れない。
今日は何も話せなかったな……朝お礼を言われたくらいで、後は仕事上必要最低限の会話を交わしただけだ。

デスクに鍵を掛け、わたしも部屋を後にした。

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