例えば危ない橋だったとして
前兆のような平穏

2月に入ってから仕事は一層忙しく、ピークへと向かっていた。
それでも皐は合間を縫って、わたしに新たな仕事を教え込んだ。

「協力会社から時々、新しい分譲地の開発情報を送って来るから、まだ設備選定システムに上がって来ない新しい電柱を地図に書き込んで……こういう風に」
「終わったら何処かにファイルしてるの?」

「ファイルの場所は……」

なかなか復習するような時間も取れなかったが、メモだけは増やされて行った。


もうすぐ皐と初めてのバレンタインを迎える。
有名ブランドか、手作りか……決めきれないまま、仕事終わりに百貨店の特設会場へ足を運ぶ。
多分、皐は手作りすれば喜んでくれるに違いないが、買ったものの方が間違いなく美味しいし……皐は結構グルメだから、それも喜んでくれるだろう。
誘惑に負け、とりあえず自分用のつもりで、15個入りのショコラを購入した。
これを皐と一緒に食べるか否か……悩むところだ。

インターネットで簡単かつ豪華に見えるレシピを探し出し、ラッピングについても入念に下調べを行い、これなら何とかわたしにも作れそうだと自分の背中を押した。
日を改め、今度は手作り材料の特設会場へ足を伸ばした。
此処には義理チョコを探す女子は居ない。どの女の子も、楽しそうに浮き立つ様子を見せている。

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