例えば危ない橋だったとして

そのまま1週間が過ぎた。
わたしはすっかり、あの夜は幻か何かだったかのように思えて来ていた。


今日は金曜日なのに残業である。
定時から2時間が過ぎ、仕事を終えた社員達は続々と帰って行き、係長と黒澤くんとわたしの3人きりとなった。
まだまだわからないことだらけなので、依頼をさばくためにひたすら基本的な登録ばかりを任されていたが、それでも時折ややこしい問題が持ち上がる。

「黒澤くんこのマンションソレイユって、ビル設備が2つあるんだけど……」
「部屋番号に規則性が無いか?」

黒澤くんが画面を覗き込み、システムの項番を叩く。
マンションの登録一覧を出してくれた。

「×01~×05号がマンションソレイユA、×06~×10号がマンションソレイユBで登録されてるってわかるだろ。それを特記欄に入力しておかないといけないのに、漏れてるんだよ」
「おぉ~なるほど」


感心していたその時、係長の携帯が鳴り、部屋の外へ出て行った。

「申し訳ないが、急いで帰らないと行けなくなったから、黒澤くん後頼めるか?」

数分後、慌てて戻って来た係長は、黒澤くんが了承すると、また慌てて帰って行ってしまった。

バタンと扉が閉まり、途端に部屋の中は静まり返った。

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