例えば危ない橋だったとして

また黒澤くんが何かを仕掛けて来たらどうしよう、と身構えていたが、特にわたしに構うことなく、他の男性社員と話をしていた。
というより、次々と男性社員達に捕まっていた。

「黒澤さぁ、あのコンパの話進んだ?」

「黒澤くん、また資料を頼めるか?」

彼らの様々な要望を一身に引き受け、全てにそれ相応の返答をしていた。
さすが完璧星人……と感心したと同時に、彼の言葉を思い出した。

『それは、建前だよ。』

皆に見せているこの彼が建前なのだとしたら、実は無理をしているということ?
わたしなら…表情に出やすいから、黒澤くんのように嫌な顔ひとつせず対応など出来ないだろう。
いつも笑顔を作って、いつも表情を崩さず……。
……仮面をかぶっている?

隙のない、完璧という名の仮面。
皆の期待に応えようと、そうしているのだとしたら……。

何だかとても、切ない気持ちが込み上げて来るようだった。

どうしてそんなことをしているの?
この人には、どんな本当が隠されているんだろうと、心が引き寄せられそうな感覚に陥っていた。

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