例えば危ない橋だったとして

黒澤くんは、今何を考えているんだろう。
わたしとの関係を、どう思っているんだろう。

急に強風が吹いて、冷たく頬を叩く。
黒澤くんの顔を見上げると、黒い髪が靡いている。
わたしの視線に気付き、目が合った。

風がやんでも、お互いに見つめ合ったまま、動かない。
しばし沈黙した後、黒澤くんがゆっくりと右腕を上げ、わたしの耳元に指先が触れた。
黒澤くんの仕草にこれまでのような強引さは感じなかったけれど、もう拒む気持ちは起こらなかった。
むしろ、黒澤くんが欲しくてたまらなかった。
だから、静かに瞼を閉じた。

唇に柔らかな感触。
黒澤くんの吐息を感じる。
僅かに息を吐いた口の隙間から、入り込んで来る舌。
その舌に自分の舌を絡ませた。
甘くて、激しい。
とろけるようなキス。

わたしの左手も、自然に黒澤くんの胸元に添えられた。
右脚とベンチの間に、黒澤くんの左脚が滑り込んで来る。


好き


その瞬間、わたしの頭に過ぎった言葉はその二文字だった。
こんな所で、とか、やめて、とかではなく
全然嫌だと思わなかった。

色々と理由を付けて、誤魔化していたけれど、もうとっくの昔に、黒澤くんを好きになっていたんだと、気が付いた。

一度離れては、また口付ける。
その度頭の中に、好き、と響いた。
いつの間にかわたしも手を、黒澤くんの頬に添えている。
揺れる黒澤くんの瞳が儚げで、切ない。

覚悟を決めよう、と考えた。

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