例えば危ない橋だったとして
運命の夜

仕事は滞りなく終業を迎え、わたしは急いであの居酒屋へ向かった。
若干の不安を携えつつ。
特に返事はなかったから、来てくれるよね……?

店に入ると、前回と同じテーブル席に通され、前回と同じ椅子に座り、呼吸を整えた。
何とか一足先に着くことが出来たみたいだ。
……というか多分、わたしが先に着けるように時間を合わせてくれている気がする。
予想通り、彼はすぐに店に現れた。


「ご、ごめんねなんかいきなり……今日は大丈夫だった?」
「全然平気」

声を掛けると、黒澤くんが微笑して席に着く。

「榊に誘われるの2回目だな」

つぶやいて、瞼を伏せた。
仄かな照明に照らされ、長い睫毛に影が落ち、綺麗。

「そうだっけ……?」

言われれば今までほとんど、やや強引に黒澤くんに連れ出されていた。
今になって気恥ずかしさが込み上げて来る。

「嬉しい」

黒澤くんはにっこりと笑って、本心であろう言葉を率直に言ってのけた。
そんな素直な反応されたら、わたしの方が嬉し死にする。

< 74 / 214 >

この作品をシェア

pagetop