例えば危ない橋だったとして

「あ、あの……」

膝の上の手を握った。
その言葉を口にするのは、勇気が必要だったけれど、覚悟を決めてテーブルから黒澤くんの顔に視線を移した。

「……黒澤くんのお家の話を、聞いても良いかな……?」

黒澤くんは少し目を瞬かせた後、頬杖を付いて視線を外した。

「……だから、そういうの彼女みたいじゃん……」

その頬は、僅かに紅潮しているようで、そんな彼の姿にわたしの頬もみる間に紅潮してしまった。
……言わなきゃ、ちゃんと。
心臓の音がどんどん大きく速く鳴って、握った掌が汗ばむ。

「……かっ……彼女に、して下さい……」

だんだんと声が小さく掠れてしまった。
目を合わせることは出来ず、俯いて口にした言葉は、彼に届いただろうか。
恐る恐る顔を上げる。

黒澤くんは驚きを隠せないといった様子で、固まっていた。

「……えっ……」

口が半開きの黒澤くんなんて、初めて見た。

「……本当に?」

困惑したような、怒ったような表情で問い掛けた彼に、頷いて応える。
すると黒澤くんが片手で頭を抱え、大きく溜息を吐いた。
口元を手で隠し、視線は横の窓の外へ向けながら口にする。

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