例えば危ない橋だったとして

10分後、そっと部屋へと戻った。
ハンカチとティッシュを駆使してどうにか顔を直そうと試みたが、目元はともかく鼻の赤みが引かない。

幸いロッカーの前は隣の部署のロッカーと向かい合って通路になっており、デスクからは死角で助かった。
ロッカーの鍵を持って来ておいて正解だった。
なるべく音を立てないよう鞄を探り、ポーチを掘り当てコンシーラーを手に掴んだ。
皆に気付かれないようにさっと化粧を直し、何事もなかったような顔をしてデスクに戻る。
黒澤くんに不審がられていないことを願った。
日頃こんな時間にトイレに立つことはないので、無理な話だろうか。

幸か不幸か、そんな一連の動作の間に多少冷静さを取り戻せたらしく、その後は然程取り乱すこともなく業務をこなすことが出来た。

しかし、家へ帰るとまた黒澤くんで頭を一杯にして、ベッドに倒れ込んでいるのだった。
夜もよく眠れず、昼休みにはデスクに突っ伏して仮眠を取る。
仕事中に泣くことさえなかったが、集中出来ず席を立つことは増えたかも知れない。
毎日どうにかして1日を終えた。

< 92 / 214 >

この作品をシェア

pagetop