例えば危ない橋だったとして
黒澤くん、完璧星人に戻ったのか……わたしの前でも、仮面を被って。
“元”に戻るって、こういうこと……。
そう考えてしまった時から、震えそうな手を隠すことに意識を割いた。
鐘が鳴り午後の業務が始まる。
一生懸命、平静を装いPCの画面を眺めた。
だけど、声が震えてしまいそうで電話には出られなかったし、依頼書の内容も全く頭に入って来なかった。
このままでは仕事にならない。危機を覚えたわたしは、鐘が鳴って30分も経たないうちに立ち上がった。
黒澤くんの視線を感じた気がしたけれど、振り返らなかった。
一度落ち着こうと、トイレに向かう。
さすがにトイレには誰も居ない。
鏡を見つめると、酷い顔をしている。
「動揺してるの、バレたかな……」
ひとりごちて、益々悲しくなって来る。
黒澤くんが素顔を見せてくれた気がしていた、楽しかったこの1ヶ月半は、もう過去なのか。
あのキラキラして見えた日々は、一体何だったんだろう。
目尻に熱い液体の感触がして、鏡に視線を戻すと、涙が溢れていた。
どうしよう、化粧が落ちてしまう。
目元にハンカチを当てがったが、後から後から涙が零れ落ちる。
何て馬鹿なことをしてしまったのか。
大切だったのに、上手く大切に出来なかった。
自業自得だから、泣いてはいけない。
涙を押し込めようと、歯を食い縛った。