クールな社長の溺愛宣言!?
清家(せいけ) 梓、二十六歳と書かれた下には、生年月日、学歴、職歴、資格……そこには私自身が努力してきた〝履歴〟が自筆で書かれている。

 必死で勉強した大学時代。経済的な事情から奨学金を受けていたので、勉強の時間以外はバイトに明け暮れる日々だった。サークル活動や、合コンなんてもっての外(ほか)だ。

 けれどそれを後悔したことはない。早くに父を亡くした私を、母親はひとりで育てあげてくれた。だから早いうちに少しでも金銭的に楽をさせてあげたかったし、きちんと働く姿を見せて安心させたかったのだ。

 それに、ずっと続けていた結婚式場でのバイトのおかげで、社会人としてのマナーや身のこなしを学生時代に身につけることができた。常にお客さまの様子を窺うことで、自分がなにを求められているのかを考えて行動できるようになっていったのだ。

 新卒で採用された大手上場企業では、学生時代のがんばりが実を結び、それなりの実績を積んできたつもりだ。

 それなのに『明日から来なくていい』のひと言で、私の社会人としての四年間のキャリアがあっと言う間に崩れ落ちた。

 有休を消化する形でひと月ほどの休みを取らされ、その後自己都合退職の扱いで、私は職を失った。

「はぁ……」

 思ったよりも大きなため息をついていたらしく、向かいに座っていた大学生らしき男の子が、眺めていたスマートフォンから顔を上げて、チラッと私を見た。

 視線はすぐに外(はず)れたけれど、気まずさにもう一度ため息をつきそうになって、慌てて呑み込む。
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