きみを見ていた
「今朝、磐座先生から連絡があった時は何事かと思ったわよ」

運転手つき高級車の後部座席で、ママは話し始めた。

「でも、ものわかりの良い先生で助かったわ。
海外生活が長かったせいか、とても気さくで話しやすいし。
理事長先生とも以前からのお知り合いらしいわよ」


ものわかり。
上から目線なのは相変わらずだ。
気づかないだろう、
ママを丸め込むのに、相手はさほど苦労しないという事を。

「そう」

「メイ、あんた部活のことどうして私に何も言わなかったの?
困るじゃないの、ただでさえ成績が抜きん出てる方でもないのに生活面で評価が低いなんて話にならないわ。
あんたみたいな子は、勉強は他人よりやって当たり前。
生活面ではより一層他人より出来てやっと一人前なんだから」

「・・・」

「聞いてるの?ったく。
明日からはちゃんと部活もやってくるのよ。
部活はほら、一生懸命やることはないんだから。
適当に、周りと合わせて足引っ張らない程度にやればいいのよ。
まぁ、歌なら、なんとかついて行けるだろうから。
ね、メイ。
くれぐれも“適当に”やるのよ」

「ん。
わかってる」

適当。
ママ曰く“不器用な子”の私。
その意味は、言われなくても自覚している。


せっかくの並木道。
深呼吸できない息苦しさと、
明日からはじまる部活への負担で心は複雑だった。



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