とあるレンジャーの休日

 ――紫乃は絶対わかってない。
 二十代の男が付き合い始めたばかりの好きな女の部屋で、落ち着いて眠れる訳がないってことを。

 歩はそこでハッとし、ガバッと勢いよく顔を上げた。

(そうだ! こういうときは筋トレ!)

 今あちらの部屋に戻ったら、紫乃はまた一緒に眠ると言い出しかねない。
 それはもっと困る。
 だから、とりあえず今夜はここで過ごそうと決めた。

 どうせ眠れないなら、トレーニングするのがいい。
 モヤモヤを解消できて、筋肉も付けば一石二鳥。
 それしかない。

 歩はその場で床に這いつくばると、一心不乱に腕立てを始めた。



 腹筋、背筋にスクワット――あまり物音を立てずにできるトレーニングを汗だくになるまでやって、力尽きた歩はそのまま床の上に転がり、天井を見上げた。

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