シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~
 翌日、わたしは目覚めた。
 自宅のベッドで、二十二歳の身体だった。この時代にとどまったままだ。
 顔だけ布団から出して、眼鏡をかけ、あたりを見回す。
 不思議だった。どうしてここにいるのか。
 今すぐ制服を着て、合宿に行きたいのに。
 大人になってしまった自分の日常が恨めしい。

 簡単なメイクと、持ち物の準備をして、大学へ向かう。
 三人と顔を合わせたらバツが悪い。一瞬よぎった思いは、すぐに別の考えに追い出される。
 どうにか中二の夏休みに戻る方法を見つけなくては。
 このまま現実が確定してしまったら、バンドはラストライブに向けて走り出してしまう。
 解散を覆せなくなる。
 それは困る。
 今はまだつながっている三人が、もしばらばらになったら、再結成は難しくなる。

 キャンパスに着いて、一限のプログラミングを受講した。
 四年次にもなって、必修科目で出席しているのはわたしくらいなものだ。毎週感じる居心地の悪さに耐え、眠気と戦い、九十分を乗り切る。
 二限の講義からは、亜依も一緒だ。どんな顔をして会えばいいんだろう。気まずいけれど、それもあの夏に跳ぶまでの辛抱だ。
 別の校舎へ移動する途中、意識が人影をとらえた。
 見逃しちゃいけない、と勘が告げる。
 わたしは足を速めて、階段を駆け下りる。
 長い髪、まっすぐ伸びた背中。タイトスカート。
 特徴的な歩き方。
 衛藤先生らしい女性が見えた気がしたのだ。
 中高の音楽教師である彼女が、大学に顔を出す理由はわからない。想像すると嬉しくはないけれど、遥人に用があって会いにきたのかもしれない。
 急げば追いつけそうだった。
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