シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~
 わたしは三人から「マネージャー」と呼ばれている。
 スタジオやライブハウスの予約、ライブ準備における物品の手配、WEBサイト構築、音楽制作以外の用事はほとんどわたしがこなす。
 自分で「わたしがマネージャーです」と認めるのは恥ずかしいから、対外の電話では「トライクロマティックのスタッフです」と名乗るようにしている。
 だって芸能人のマネージメントなんて立派な仕事、自分ができているとは思えないし。
 自信を持てたことなんてない。
 あくまでもわたしは中高の部活のマネージャー的な、みんなが全力で音楽を楽しむための助っ人。雑用係だと思っている。

「いいよ」
「え?」

 思わず声を上げたのは、わたしと亜依。
 生まれるときに母親の胎内に愛想を忘れてきたはずの遥人が、わざわざ椅子から立ち上がり、見ず知らずの他人と握手している……。

「ありがとうございます!」

 流れに呑まれるように亜依も握手し、なぜかわたしまでその酔客に手を握られた。
 わたしのこともメンバーだと勘違いしている青年は、感激して自席へ戻っていった。
 妙な罪悪感にわたしはため息をつく。
 隣で亜依が押し殺した声を出した。

「……どうしたの、珍しい」

 バスドラムを思わせる低い声に、遥人は肩をすくめた。
 漫画でもあるまいし、そもそも日本人にはそぐわないジェスチャーなのに、遥人がやると妙にはまる。スーツ姿だから余計に絵になる。
 握手したのは、ただの気まぐれだったのだろう。そう納得しかけたところで、遥人がぼそりと言った。

「最後くらいいいかと思って」
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