泣かないで、楓
 僕は事務所の向かいにあるコンビニへ、速攻ダッシュをした。

 この間は、菓子パン買ってきて怒られたからなぁ。先輩の好みなんて、知らないんだけど。僕はあれこれと、何を買おうか考えながら、コンビニの自動ドアの前に立った。

「キャッ!!」

 女性の悲鳴が聞こえた瞬間、僕は強い衝撃を受け、足のバランスを崩し、思いっきりしりもちをついて倒れた。誰かとぶつかったみたいだ。

「ててて……」

 尻をさすり、頭をかかえる。コンビニのマットの上には小銭がばらまかれており、ぶつかった相手も、一緒に倒れたみたいだ。

「ご、ご、ごめんなさいっ」

 倒れた女性は、妙なアニメ声を上げ、必死に床にばらまいた小銭を拾っている。

 ふと視線を上げると、それは見覚えのある顔だった。
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