危険地帯




私だったら自分の過去の話を、雫さんみたいに笑って話せない。


ううん、話そうとさえしない。


すごいな、雫さん。



「あ、あの、雫さん」


「どうしたの?羽留ちゃん」



私も、雫さんみたいに強くなりたい。


どんなに暗い過去だって、笑顔で話せるような人になりたい。


どうしたら、そんな風になれるんだろう。



「私、自分が存在してる意味がわからなくて……」



耳をかすめる、忘れられない遠い昔の“声”。


その“声”は、私の存在を否定する。



私はどうして生きているの?




「そんなのわからなくていいのよ」


「え?」


「これから見つけていけばいいの」




雫さんの澄んだ瞳が、私の心を撫でているかのようだった。


なんて単純で素敵な答えなんだろう。



< 114 / 497 >

この作品をシェア

pagetop