危険地帯
律は、お姉さんのことを「姉」ではなく、ずっと「女」と呼んでいた。
泣くのを我慢している子どもみたいに。
「そんなある日、女の家に警察が来たんだ~」
「警察が、どうして?」
驚いている私に、律は続けて話す。
「僕もびっくりしたよー。だって、僕の姉だと思っていた女が、実は僕を誘拐した赤の他人だったんだもん」
……え?
さらっと言った律の言葉に、私はさらに驚いた。
お姉さんでも家族でもなく、誘拐犯?
「警察が女を問い詰めたら、女はなんて言ったと思う~?」
心臓をえぐっているかのような声、笑わないそのグレーの瞳、闇とは無縁の髪色。
全てが、何かを叫んでいた。
悲鳴に近いその叫びが、確かに聞こえた。