危険地帯
私が「なんて言ったの?」と問いかければ、短い沈黙が流れた。
天井を見上げた律は、ひどく冷たい表情をしていた。
「『誘拐なんかしてない。こいつが勝手についてきたんだ』って、嘘をついたんだ」
ふと、昨日律が言っていた言葉を思い出した。
ところどころ、ノイズが混じっていた。
『僕さ、捨てられる前に捨てる派なんだけど』
あぁ、そうか。
あの時の言葉には、律の悲しみと苦しみが込められていたんだね。
「その女はもちろん捕まって、僕は孤児院生活に逆戻り」
律は、自分の後ろ頭に両手を回して、目を伏せながら言った。
律の横で、私は拳をギュッと握り締めた。
「多分、そこからかなぁ。どの女も僕を捨てた女に見えるようになったのは」