危険地帯



私が「なんて言ったの?」と問いかければ、短い沈黙が流れた。


天井を見上げた律は、ひどく冷たい表情をしていた。




「『誘拐なんかしてない。こいつが勝手についてきたんだ』って、嘘をついたんだ」




ふと、昨日律が言っていた言葉を思い出した。


ところどころ、ノイズが混じっていた。



『僕さ、捨てられる前に捨てる派なんだけど』



あぁ、そうか。


あの時の言葉には、律の悲しみと苦しみが込められていたんだね。



「その女はもちろん捕まって、僕は孤児院生活に逆戻り」



律は、自分の後ろ頭に両手を回して、目を伏せながら言った。


律の横で、私は拳をギュッと握り締めた。




「多分、そこからかなぁ。どの女も僕を捨てた女に見えるようになったのは」





< 197 / 497 >

この作品をシェア

pagetop