危険地帯
「羽留が初めてここに来たあの時にさ」
ポツリ、と呟く律の声がスッと耳に入る。
さっきまで感じていた恐怖心が、消え失せていく。
「羽留が言った『私は、独りなんかじゃない』って言葉、覚えてる?」
「うん……」
それは、私がムキになって言った言葉。
携帯に家族からの連絡が一つも入ってなくて、悲しくて思わず言ってしまったんだ。
「もう一人の僕を見ているようだった」
「え……?」
「僕のことを言ってるようで、本当は怖くて苦しかった」
律の手は、打ち震えていた。
大丈夫、と心の中で伝えながら、律の手に私の手を重ねた。
「独りじゃないよ」
律を安心させるように、私は囁く。
律の揺れる眼差しが、私を見つめた。