世界が終わる音を聴いた
「お前、黒髪……。もしかして、ハデス、か?」
意識を投げ出す前に、何かに気付いたのか消え入りそうな声で息子は言った。
「まだ意識があるのか。大したものだな」
「お前の、せいだよ」
「……なんだ」
「あの娘、を、刺したのは、お前のせいだ……」
「なんだと?」
ニヤリと笑う気配がして、最期に息子は呪いのような言葉を呟く。
「旦那に抱かれているのに、他の男を想うだなんて、許されるはずがない、だろう……?ルナを、殺したのは、お前だ」
「なんだ、と?」
その問いに答えることなく、力を失った体はそのまま地面に叩きつけられる。
俺は自分手が震えていることに気がついた。
俺がルナを殺した……?
ルナが俺を想う気持ちが、俺がルナを想う気持ちがその命を奪ったのか……?
遠くで様子を見守っていた旦那様が近づいてくる。
俺の様子を見て大層驚いている。
「ハデス、お前……。何を泣いている?成し遂げたのだろう?」
「泣く?」
そういわれて初めて気づいた。
確かに、涙に頬が濡れていた。
「俺がルナを殺したのか……?」
「何を聞いた?」
焦ることなく聞いてくる旦那様はもしかしたら、ルナの今際の際を聞いていたのかもしれない。
何故その事に気づかなかったのだろう。
気付いたところで何も出来はしなかったけれど。
何を後悔しても遅い。
溢れ落ちる涙を止める術を俺は持っていなかった。
「……ルナ妃の最期を聞いたのか。彼女は最後まで抵抗したそうだ。頑なに目を閉ざし、声もあげず。……ただ刃を避けきることはできず、男の力にもかなわなかった。彼女の最期に残した言葉は唯一、ハデス、君の名だ」