世界が終わる音を聴いた
取り乱して、何も手につかないよりは、冷静でいられた方がいい。
考え方も性格も早々変えられるものでもないし、と、そう結論付けて、私は片付けを再開する。
本当は服も整理したいところだけど、それはやめておく。
次は、と、手を伸ばした箱。
蓋を開けると想いも一緒に溢れそうで、仕舞ったときから一度も開けていないものだった。
何が入っているのかは、蓋を開けなくてもわかってる。
死期が分かって良かったことがひとつあるならば、あと2日は確実に生きていられると言うことだ。
その間くらい、先延ばしにしても良いだろう。
「千夜子ー!起きてるー?」
母の大きな声が聞こえて、私は作業を中断した。
いつのまにか時間は7時を回っていた。
もしかしなくても朝食の時間だろう。
私は下に降りていくと、母はいつもと変わらず忙しなく動き回っている。
庭木に水をやり、朝食の準備をし……。
コンロのヤカンがちょうど沸いていたので火を止めたところで、母が水やりから戻ってきた。
「学くん、何時に来るって言ってたっけ?」
「2時くらいじゃないかな」
「そう。じゃあ午前中に色々終わらせちゃわなきゃね」
「そんな肩肘張るような相手でもないじゃない?」
「そりゃ、 学くんだけならね。でも、菜々美さんも一緒なんでしょう?」
「一緒だけど……」
「家がきちんとしてないと、学くんにも申し訳ないじゃない。陽奈子にもしかられちゃうわ」
「そう?」
「そうよ」
それならもう、なにも言うまい。
母の気のすむようにすれば良い。
父は読みかけの新聞をたたみ、そのままテーブルに置いて立ち上がる。
喋りながら運ばれた朝食の並んだ食卓の横をすり抜け、母と私も父の後ろに倣う。
仏壇には、真新しい菊の花が活けられていた。