忘れたはずの恋
3.夏の終わり
暑い…。

私は強い日差しを睨み付ける。

駅から局まで歩く、というだけで不快だ。



「吉永さん」

後ろから声が聞こえたので振り返る。

「おはようございます!」

自転車から軽やかに降りたのは2日ぶりに会う藤野君。

「おはよう」

私が微笑むと藤野君も微笑んで頭を下げた。

「先日はありがとうございました」

藤野君は自転車を押しながら私と一緒に歩き始めた。

「こちらこそ色々とお世話になりました」

本当に藤野君のチームの皆さんにはお世話になった。
直射日光を避けられるようにスペースを確保していただいたり。
レースが終わってからも中に入れてくださってゴールライダーの藤野君を一緒に出迎えさせてもらった。
2人の課長はこんな経験は二度とないかもしれない、と口をそろえて言っていたのが印象的だった。

「おかげさまで上位でフィニッシュ出来ました。
暑い中、来て頂いて本当にありがとうございます」

藤野君の細い、でも筋肉で締まっている腕がTシャツの袖から見えて少しドキッとする。
…綺麗な腕だなって、思う。

「また、良かったら来てくださいね。この後、全日本のレースも続きますし」

私は少し照れながら頷いた。
ちょっと、行ってみたいなあって思ってる。
もう一度、あの場所で藤野君に会いたいって。
そう思うの。

「おはようございます」

後ろから現れたのは近藤さん。

「「おはようございます」」

藤野君と私の声が重なった。

「8耐、行けなくてごめん」

「いえ、とんでもないことです。そのお気持ちだけで有難いです」

19歳とは思えない、返し方。

「10位、結構凄いって思うんだけど」

そう、藤野君たちのチームは決勝10位でフィニッシュした。

「あ、はい!初めて8耐を走ったライダーが2人もいるチームで良くやったって監督からも褒められました」

嬉しそうに笑う藤野君がキラキラして眩しい。
この、真夏の太陽よりも眩しい。

「吉永さんは課長と?」

急に振ってくるなよ…。

「ええ、初めてだったのでレースに詳しい吉田総括と相馬課長と」

「そうですか。楽しかったですか?」

「はい、貴重な経験をさせていただいたと思います」

近藤さんを見て、返事をしながら一瞬だけ藤野君を見ると少しだけ微笑んでいた。

「では、僕、先に行きますね」

藤野君は自転車に乗り、漕ぎ始めた。

えー!!ちょっと!!先に行っちゃうの???

藤野君は颯爽と去って行った。

後姿を見ながらちょっとため息をつく。

その後、近藤さんと適当に話をしながら局に着いたけれど…何を話したのかよく覚えていない。
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