忘れたはずの恋
大人の世界の…

色々な思惑が渦巻く中、彼らみたいな子供達が周りの顔色を伺いながらその世界で生きている。

そう思うと辛い。

あの笑顔の裏側にはどんな感情が蠢いているのか。

計り知れない。



「それでも、藤野は走り続けるんですよ」

私の心情が吉田総括にバレたんだろうか、っていうくらいのタイミング。

「なにがあっても、決して諦めないって。
彼は言ってました。そして今の環境にとても感謝していましたよ。
今のチームに入れたことも。この仕事をしていることも」

続けて相馬課長が言った。

「常にバイクのそばにいられる仕事が良い、と思ってこの会社を選んだんだよ。
自分の力で働いて、レース資金を作って。
それでも藤野はまだ恵まれている。多種多様なスポンサーが付いているからね。
それは藤野の人柄だよ」

その瞬間、目の前を藤野君は走り去っていった。

まだまだ幼さが残る彼はたくさんの重圧と戦っているんだ。

周りはみんな子供だと言うけれど…私から見たら。

私よりもずっと年上に感じる。



「…大丈夫?」

その言葉にあわてて我に返り、私は目元をこすった。
いつの間にか涙が溢れていた。

周回を確実に重ねてく藤野君。
ペースは一向に落ちる様子がない。
そんな姿を見ていたら、いつの間にか涙がポロポロと私の頬を伝っていた。

「…凄いですね、藤野君」

二人の課長はうんうん、と頷いて

「わかってくれて嬉しいです」

吉田課長はそう言って晴れ渡った真っ青な空を見上げる。

「彼はどんどん上に上がっていきますよ、これから。
途中、挫折も味わうでしょうけれど…彼がそれを乗り越えたらきっと素晴らしい景色が広がっていると思います」
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