忘れたはずの恋
藤野君は一体、何を考えているのだろう。
不思議で仕方がない。

私みたいな年上を一晩泊めて。
嫌じゃなかったのかな。
…さっきの言葉も。
私が勘違いしたらどうするのよ。
いや、もう。
勘違いしているのかも。

これ以上、好きになってはいけない。
頭の中でもう一人の自分が何度も言う。

でも…もう一方では。

『絶対にこの人の差し出す手を離してはいけない』

そう呟く自分がいる。



「家、ここだから」

結局、家の前まで送ってもらった。
バイクは私が怖いので電車に乗り、駅からは歩いた。

その間、そんなに大した会話はせず、適当な世間話をして。

「これで安心です」

藤野君は笑っていた。

「では、失礼します」

クルリ、と向きを変えて藤野君は歩き始めた。

「ありがとう」

その背中に声を掛けると

「いえいえ」

こちらを振り返って会釈をした。

「あ…」

チラッと私を見ると

「僕は誤解されても本当に…問題ないですよ。
寧ろ、そうなりたいです。
吉永さんとなら」

その目は私の後ろの…誰かに向けられていた。

「…また考えておいて下さい。
折を見て、また回答を頂きに参ります」

一瞬、時々する鋭い目をして、踵を返した。



…今、物凄い爆弾投下をされた気がする。



私も家の玄関に向きを変える。

「今の、だあれ?」

母と妹が満面の笑みで私を待ち構えていた。
< 40 / 96 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop