忘れたはずの恋
「ごめん。私もおかしな事を言ってしまった」

おいおい、吉永さんまで。
無理やり笑みを浮かべても。
口元震えてますよ。

それ以上に震えていたのは…藤野。
目に大粒の涙。
…子供だ。
本当に子供だ。

「あ〜あ」

やがて、情けない声が聞こえる。

「どうしてこう、上手く行かないんだろう」

そりゃ藤野、自分を追い込むからだよ。
ふと、視線を逸らした瞬間。

凄いスピードで藤野に近づく女性。

あれは…見たことがある!!
藤野に見せてもらった…。

ロリータママ!!

いきなり藤野に抱きついてキスなんてしたら…。
無理でしょ、吉永さん。
思いっきり誤解している顔。

「ちょっと、何泣いてるのよ?」

お母さん、藤野の頬を思いっきり抓っている。

「…いい加減にしてください」

「何が?」

「本当に参っている時にこんな事、止めてください!」

あああー…藤野、泣きだしたよ。

「嫌よ…全く、何してるのよ?
訳の分からない賭けをして、大好きな人と自分を追い込んで。
バカじゃないの?」

僕と同い年のお母さんは矢継ぎ早に捲し立てる。

「ちょっと目を離せば訳の分からない事をして…。
だからあなたはダメなのよ!もっとしっかりしなさい!」

藤野の目から涙が溢れだしている。
こう見ると…まだまだ子供なんだよね。
まあ、こういう面を持っているから人を惹きつけられるんだけど。

「まあまあ、今日は幸平、よく頑張ったんでこの辺で」

祥太郎君が二人の間に入るが、お母さんは鋭い目を向ける。

「頑張って当たり前です。
好きな女の人と付き合うかどうかの賭けでしょ?
頑張らないでどうするんです」

そう言って藤野の胸ぐらを掴んで引っ張った。
そんな細い腕で…藤野の体をあっという間にグラつかせた。

「本当にちょっと精神的に落ちかけているので止めていただけませんか、お母様」

その瞬間。
吉永さんが面白いくらいに目を丸くして藤野とお母さんを何度も往復して見ている。
本当に…笑いそうになって一瞬、俯いて笑いを堪えた。

「誰が【お母様】だあ?
ママって呼びなさい!!何度言ったらわかるの?本当に乙女心をわかっていないわね?」

胸ぐらを掴んだ手に更に力が加わるのが見える。

「自分の人生賭けたようなレースならば完璧にレースコントロールして頑張れよ、このバカ息子!!」

藤野のお母さま。
未来あるライダーを…。
いとも簡単に突き飛ばさないでください。

藤野はそのまま地面に叩きつけられるように、よろけて倒れた。

そしてお母さんは吉永さんに言葉を掛けに行くとそのまま、彼女を連れだしていなくなった。
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